ミドルステージベンチャーの移転/引っ越しで体験したことまとめ
Fringe81は、2014年5月に、六本木に移転する予定です。
約100坪の渋谷のオフィスから、約200坪のオフィスへの移転です。今回の引っ越しプロジェクトは私がメインでやってましたので、40人~50人くらいのミドルステージベンチャーが、移転に際して体験したことをまとめておきたいと思います。あんまり詳細にお値段のことを書くと関係各所からお叱りが飛びそうなので、ちょっとぼやかして書きますがそこはご容赦ください。
Fringe81新オフィスの工事風景
■敷金、造作費用、什器のコスト(100坪オフィスの場合)
現在のオフィスは、20人くらいの時に移転してきました。2年ちょい前です。20人で100坪使うとなると、当然スカスカです。さらに言うと、実は現在のオフィスは、その昔サイバーエージェントさんの関係会社が作った壁や会議室をそのまま居抜きで何代か受け継いでいるものです。
居抜き、ああこの甘美な響き。なにせオフィスの引っ越しはベンチャーにとってはお金がかかるものです。ざっと考えると、渋谷ですと、だいたい平均賃料は坪1.8万円~2万円くらいです。とすると、100坪のオフィスだと、以下のコストがかかります。(目安だと思ってください)
- 壁や会議室、受付などの造作費用(1000-1500万円、あまり作りこまない場合)
- 敷金10~12ヶ月分(1800万円~2400万円)
- 椅子や机などの什器(500-1000万円)
居抜きではなく、全部新規で造作するとなると、敷金もあわせて、3000-5000万円くらい吹っ飛んでいくわけですね。もちろん、椅子を中古で揃えたり、造作は相見積をとればこれより安くなりますけど、ボチボチなオフィスをつくろうとするとこのくらいかかるんじゃないでしょうか。
そうするとですねぇ、起業家たるもの、1000万円とか2000万円という数字を見るとギョッとするわけですね。
「それだけのキャッシュが手元にあったら新規事業ひとつやふたつできるじゃん、、、」と。
無論ですよ、オフィスへの投資は採用活動にもいい影響を与えますし、何よりそこでかなりの時間を過ごす社員のため、と考えると投資すべきなのです。まさか社員をすし詰めで働かせるわけにもいきません。
話がそれました。
造作費用から見て行きましょうか。
で、居抜きの話です。もし、居抜きで借りることができれば、1000-1500万円を事業投資に使えるんですよね。スタートアップ~ミドルステージのベンチャーにとってはこれはとてもありがたいわけです。
スタートアップ~ミドルステージ向けの居抜きエクスチェンジサービスとかあったら、うけると思うんだけどなー。ただ、今回Fringe81も我々の後で居抜きで借りてくれるところを探そうと少し努力してみたんですが、ことベンチャー同士だと結構これ大変で。通常オフィスは、6ヶ月前に解約予告をビル管理会社さんに出す必要があります。その6ヶ月という短い期間に、たまたま渋谷の100坪くらいのオフィスに移転することを意思決定できるベンチャーのニーズがたまたま合う、っていうのは結構少ない。なにせ、いくら造作費用が1000万円ういたからといって、敷金は1800万円~2400万円かかってしまいます。ドカーンと何億円も資金調達するスタートアップは、100坪よりもう少し大きいところを借りるのもありでしょうしねぇ、、
居抜きにはいいところもあるのですが、悪いところもあります。それは、必ずしもそのベンチャー特有のニーズに合っている設計ではないことと、Fringe81のように、初めて大きいオフィスの造作をやるときに、コストがわかってないので「ぎょっとする」ことです。
敷金に関しても、これはもうどうしようも無いとは思いますが、我が国もベンチャー支援をやる、ということなので、成長著しいスタートアップベンチャーの敷金を少し補助していただく、とか、そういう制度があると事業投資に使えるキャッシュが手元に残るので、アリなんじゃないかなぁ、と思います。
■敷金、造作費用、什器のコスト(200坪オフィスの場合)
では200坪のオフィスとなると、どうでしょうか?どのくらいのコストがかかるかというと、(これも目安だと考えてください。)坪単価2万円のオフィスだとしましょう。(200坪で良い立地だともう少し坪単価はあがるかな、、、)また、Fringe81はこういうコスト構造ではありませんが、ゴニョゴニョ。
- 壁や会議室、受付などの造作費用(3000-4000万円、そこそこ作りこんだ場合)
- 敷金10~12ヶ月分(4000万円~4800万円)
- 椅子や机などの什器(1000~2000万円くらい)
- 現在のオフィスの原状回復費用(300-500万くらい?)
あくまでモデルケースですが、広さが倍になると、当然壁も2倍になります。よって造作費用も2倍くらい。敷金も2倍になり、200坪というと100人くらいまでは考慮できるでしょうから、今後入ってくる人の分の机や椅子も必要です。会議室も増えるので、でかい机もより必要になってきます。しかも、せっかく大きいオフィスになるので、ああでもないこうでもない、と色々作り込みたくなります。
てなことをやっていると、200坪オフィスに移転するには、8300万円~11300万円のキャッシュが吹っ飛んでいくことになります。これ以外にも、移転の際のトラックとか、もろもろコストがかかります。どでかいです。
■どうやって移転費用を調達するのか。増資か、借り入れか
というわけで、200坪のオフィスに移るには、ざっくり1億円かかるわけです。20人~50人くらいのベンチャーは、当然ながらVCさん等から調達したキャッシュは、そのほとんど全てを事業成長につぎ込むわけですね。200坪のオフィスに移ろう、となると、ある程度キャッシュ・フローも回ってきているステージだと思います。我々はそうでした。ここで1億円をどう工面するんだ、と。第三者割当増資によって、調達するのか、それとも銀行借入でしょうか?これ悩ましいんですよね。
事業が伸びているぶん、企業価値を上げて、増資によって調達もありでしょう。でもあんまりここで企業価値を上げすぎてしまうと、今度は市場が冷えた時に調達できなくなってしまいます。さらに、通常1億円のキャッシュがあれば、少しずつ使っていくことが可能ですが、引っ越しの場合は一気に消えます。
では銀行借入のほうがいいのか?というと、これもまた悩ましく、当然社長の個人保証はつきますし、そもそも銀行と何年かお付き合いしているか?といった信用もベンチャーにとっては課題になったりします。また、運転資金名目の借り入れでしたらし易いですけど、引っ越しはいきなりキャッシュを使うことなので、借りづらい傾向にある、ということもあるのです。
一番の理想は、事業で貯めたキャッシュを再投資すればいいじゃん、ということではあるのですが、そうすると、「事業に再投資できないキャッシュが溜まり続ける」ということになってしまいます。そこまで余裕があるんだったら、僕なら事業に再投資します。
Fringe81の場合は、直前の第三者割当増資のキャッシュ残+事業で儲けたキャッシュ+銀行借入の組み合わせでやりました。正解は無いと思いますが、「少しでも事業への再投資ができる調達と使用使途」を考えるとこうなりました。色々組み合わせてやるのがいいんじゃないでしょうか。
■うんこ問題
いきなり汚い話ですいません。最初トイレ問題、と書いていたのですが、結局はうんこなんで。20-50人のベンチャーが直面し、かつ引っ越しをしたいと思うニーズが高まるのはこれなんじゃないでしょうか。
大抵の場合、100坪以下のオフィスでは男性向けトイレの「大」はひとつです。2つあるベンチャー経営者のみなさん、あなたはすごいです。私は全くわかりませんでした。
50人になってくると、もし誰かがお腹を壊してトイレを長時間専有すると、それはそれはもう大変なことになります。私は何年かに1回、腸炎になることがあります。それ以外はそれはもう素直なお腹で、トイレを専有することは無いのですが。ある日、腸炎になった際に、会議が終わって、いざトイレ直行だ!と勇んでいった私の前に、「使用中」のトイレ大が飛び込んでくるわけですよ。あの時の絶望感といったら、無いわけ。人間のサプライチェーンの最終段階がうんこだとすれば、そこが最大のボトルネックになっている状況は悲惨なわけです。10年前くらいに読んだ「ザ・ゴール」にも、「ボトルネックを解消せよ」って書いてあった気がする。
私は愕然としたわけです。社員にこんな絶望的な気分を味あわせていたのか、と。私は絶句した後、道玄坂のオフィスを出て、マークシティのトイレに行きましたが速攻で。
あえて言うと、
ミドルステージベンチャーのオフィスの最大のボトルネックは、うんこである。そのボトルネックを作っている社長もうんこである。
と思いました。もし、スタートアップで伸び盛りのベンチャーを経営していて、100坪くらいのオフィスに引っ越そうかなぁと思っている経営者のみなさん、大は2つです。それ以外の選択肢はありません。が、、残念なことに100坪以下で2つの大を選ぼうとすると、とたんに選択肢が無くなります。これはほんと悩ましいところです。
なので私の新しい200坪のオフィスの下見で一番最初にやったことは、トイレ大の数の確認でした。
■造作費用や什器、フリーレント期間の会計処理
200坪以上のオフィスに引っ越すとなると、壁などの資産が増えます。什器もでかいテーブルだと、値段的に資産になってきます。これの会計処理もまた、規模が大きくなるぶん、注意が必要です。何年で減価償却するのか、どこまで費用処理するのか、というのも、今までのPLとは違うPLを扱うんだ、と思っておくくらいの方がいいと思います。
詳細は監査法人さんや、税理士法人さんとキッチリつめる必要があります。例えば、フリーレント期間の計上の仕方も、フリーレント期間は家賃計上しないのか、それともフリーレント期間にも計上しておくのか。次のオフィスは家賃総額が当然上がっていると思いますので、PLに対するインパクトはよく考えておく必要があります。更に言うと、会計と税務は違うので、会計処理だけではなく、税務面も考慮しておくと、より良いと思います。
■会社のビジョンやミッションとオフィス、および視点を合わせる
Fringe81は、「新しい発見を提供し、物事の見方を変える」リーン開発型事業創造ベンチャーです。テクノロジーとサービスを併せ持ち、改善を繰り返しながら、新しい事業をしかけにいく会社です。今回のオフィスではそこにこだわりました。そのビジョンをオフィスですら体現している、というものにしたかったのです。詳細は出来上がってからまたブログに書こうと思います。200坪以上になると、色々な造作が作り込めます。新たなステージ、といった感じがします。会社のビジョンや、目指しているワークスタイルなどを、デザイナーさんと共有し、視点を合わせる、これ結構大事だったと思います。
他にも色々書こうと思えば書けますが、またリクエストがありましたら教えてください。
とにかく新しいオフィスが楽しみです。成長してる感覚を感じられますよね。ベンチャーやっててよかったと思える瞬間でもあります。
そうか、色々と考えると社内ベンチャーや大企業の社内スタートアップは、オフィスのコストや悩みがだいぶ無いんですよね。そこはうらやましいですよねー。
というわけで、Fringe81の新オフィスではトイレ事情もバッチリでございますので、新しいオフィスで働きたいと思われた方は、ぜひご応募ください!