人的資本を考えるシリーズその4:心理的安全性と人的資本経営の関係について
本日は、心理的安全性と人的資本経営の関係について考察していきます。
これまでの連載を振り返ってみます。
人的資本を考えるシリーズその1:人的資本経営を多面的に考えてみる
人的資本を考えるシリーズその2:人的資本の開示は誰にとって重要か
人的資本を考えるシリーズその3:具体的な開示項目を先駆者に学ぶ。企業文化は開示項目となるか?
- その1において、人的資本は人的資源と違い、伸び縮みする。そのために人的資本の開示だけではなく「活用・改善」がポイントとなり、競争力に直結する。
- その2において、人的資本の開示は機関投資家だけではなく労働市場へのメッセージでもあるため、上場企業だけではなくすべての企業にとって重要ではないか。
- その3において、人的資本の土台は企業文化や企業風土であり、人的資本においてここが重要なポイントではないか、と申し上げました。先進的な事例として、丸井グループ様を取り上げました。
■人的資本の「土台」とは?
私は、人的資本の土台は、「健全な組織風土」と「心理的安全性の高さ」ではないか、と考えています。実はシリーズその1でも少し書いていたのですが、分量の関係上、書ききれませんでした。また、丸井グループ様のような事例も先に紹介しておきたかったのです。(そうしないと具体性に乏しいので・・)
その1の図のこの部分が該当します。
私は人的資本の開示とは、つまるところ、組織風土や組織文化を語り、その上に立脚する組織能力を開示することではないかと考えています。そのためにも、人的資本の価値向上のための「活用・改善」を実行していく必要があります。
図示すると、こういったイメージでしょうか。組織風土の上に、組織文化があります。組織文化とは、その企業における成功体験から構築され、その中で卓越した組織能力が競争力となっていきます。つまり、組織風土がズタズタに傷んでいる土壌においては、人的資本の比較可能な指標にせよ、独自指標にせよ、「活用・改善」ができないのです。せっかく人的資本の開示をしても、年々下がっていく、もしくは他社と比べて見劣りするものとなってしまっては、開示への興味や意義がだんだん薄れ、せっかく人的資本に対し経営レベルでの感心が高まっているのに、形骸化してしまいそうですね。それを防ぐには、土台である組織風土をこのタイミングで改革していく必要があります。
■心理的安全性とは何か?
組織風土を痛める主要因は、「心理的安全性」の低さにあります。
心理的安全性とは、かんたんに言うと、「自分の考えや意見などを恐れなく、組織のメンバーの誰とでも言い合える状態」です。1999年にエイミー・エドモンドソンさんが論文発表され、その後「恐れのない組織」においてまとめられて以来、Googleのプロジェクト・アリストテレスにおいて心理的安全性の高いチームこそが生産性が高い、など多くの研究がなされてきました。
いわゆる、上司の高圧的な言動や、上意下達のカルチャーが心理的安全性の低さの要因です。ミスの報告、誰かの意見に対する反論、こういった言いにくい意見を言える環境づくりが非常に重要です。(詳細は拙著「心理的安全性を高めるリーダーの声かけベスト100」にて詳述しております。)
心理的安全性が低い組織では、「沈黙」を選んだ方が得です。黙っていれば、「無知だなぁ未熟だなぁ」とも思われません。黙っていれば「若いのに生意気なやつだ」とも思われません。沈黙を選んだほうが得な組織と、活発な発言が展開され、多くの社員を「資本」として活用できる組織では、今後、不確かで不安定なマーケットのおいて、競争力が全く異なってきます。日本の恥の文化と、同調圧力が強い組織では、かんたんに心理的安全性は下がってしまいます。
■心理的安全性を高めることで組織風土改革は実行可能なものとなる
心理的安全性を高めることで、組織風土が再活性化します。人間関係の土台ができておらず、リーダーだけのシングルCPU(脳)で意思決定するのか、それとも多くのCPUを同時に使える状態で意思決定するのか。少しでも、多様な意見があったほうが生き残る確率が高くなります。ダイバーシティ(多様性)は非常に重要な考え方ですが、性別や年齢だけではなく、意見や価値観、コミュニケーションの取り方の多様性も含んでいます。心理的安全性は、これらの多様性を上げるための土台です。
不確かで社長も、部長も、課長も、上司の誰もが絶対の正しい意見を持っている、といった事が明言できなくなってきています。突然の戦争や、海外でのライバル企業の出現、人口減などは企業が初めて経験することばかりです。
元来、日本企業は組織のちからや改善のちからが優れていると言われてきました。現場の力が強いのも日本的経営の特徴でした。ところが、最も組織力や改善が必要とされてきた大メーカーですら、不祥事が多く発生しています。
近年日本では少子高齢化により人材の確保自体が難しく、そして不安定になってきています。こういった時代には、若手でも、経営者でも、全ての人を活かし切る経営が重要となってきます。さらに、今後このブログもご紹介しますが、日本特有の問題として、世代間のはたらく価値観が大きく異ることも、心理的安全性の低さに拍車をかける要因となっています。
組織風土から手をつけるなんてなんて遠回りか、と思われるかもしれません。組織風土は根深いものです。ですが、心理的安全性をしっかりと学ぶことによって、確実に組織の風土を変えることが可能だと思っています。私はこの組織風土という土台から着手するのが、実は最もお得で先回りすることではないでしょうか、と考えます。
経済成長の時代であれば、組織風土は後からついてくるものだったと思います。現在は低成長の時代です。とするならば、組織風土から先んずる、という考え方も、あるのではないでしょうか。
次回は、世代間の働く価値観について、お話してみたいと思います。
過去コンテンツへのリンクです。
人的資本を考えるシリーズその1:人的資本経営を多面的に考えてみる
人的資本を考えるシリーズその2:人的資本の開示は誰にとって重要か
人的資本を考えるシリーズその3:具体的な開示項目を先駆者に学ぶ。企業文化は開示項目となるか?
人的資本を考えるシリーズその4:心理的安全性と人的資本経営の関係について
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