「心理的安全性」は日本企業こそ必要?-若手は超マイノリティ-
前回、こちらの記事で今の大学生はヨコの社会を大切にするという特徴があり、目立ったり当てられるのを嫌う、という特徴があると書きました。
今回は、「心理的安全性は日本企業にこそ必要なのではないか」という記事を各種データを元に書いてみます。
心理的安全性の基本的な概念などは、こちらの記事に書きましたのでぜひご覧ください。
“心理的安全性を高めることで、組織風土が再活性化します。人間関係の土台ができておらず、リーダーだけのシングルCPU(脳)で意思決定するのか、それとも多くのCPUを同時に使える状態で意思決定するのか。少しでも、多様な意見があったほうが生き残る確率が高くなります。ダイバーシティ(多様性)は非常に重要な考え方ですが、性別や年齢だけではなく、意見や価値観、コミュニケーションの取り方の多様性も含んでいます。心理的安全性は、これらの多様性を上げるための土台です。
不確かで社長も、部長も、課長も、上司の誰もが絶対の正しい意見を持っている、といった事が明言できなくなってきています。突然の戦争や、海外でのライバル企業の出現、人口減などは企業が初めて経験することばかりです。
近年日本では少子高齢化により人材の確保自体が難しく、そして不安定になってきています。こういった時代には、若手でも、経営者でも、全ての人を活かし切る経営が重要となってきます。さらに、今後このブログもご紹介しますが、日本特有の問題として、世代間のはたらく価値観が大きく異ることも、心理的安全性の低さに拍車をかける要因となっています。”
と以前の記事で書きました。今日は世代間のはたらく価値観について書いてみます。
心理的安全性は、米国の医療機関での重大手術ミスの要因分析の論文から生まれています。「米国発」の概念なのです。このことから、「また田中は新しい概念を米国から持ってきている」と思われるかもしれません。そしてまた、米国で通用した概念が必ずしも日本で正解である、と簡単には言えないですよね。今日はそのあたりを深堀りします。
では、実際に日本と米国の就業者数を年代別(5歳刻み)で見てみましょう。
まず目立つのは、日本の就業者数のボリュームゾーンが45〜49歳と全体的に年齢が高めなのに対し、米国では各世代まんべんなく人口がバラけています。そして、30〜34歳がボリュームゾーンとなります。ここは日米でずいぶん、違いがありますね。
団塊ジュニア世代(47-51歳)がちょうど45-49歳のボリュームゾーンに入っています。日本の人口分布上は人口が多く、団塊ジュニア世代が含まれる45-49歳は、964万人います。
日本の労働環境における「若手」は35歳未満です。このゾーンは足しても23%しかいません。ましてや20代となると、15%です。では米国はどうでしょうか。35歳未満は32%です。20代は20%になります。
米国でも日本でも、「若手」は少数派、マイノリティです。特に、日本の組織内で若手や20代は圧倒的マイノリティと言えるでしょう。
多くの経営者や人事の方とお話していると、「若手の活躍」「若手の自主的な行動」を期待されています。そういった活躍や行動をうながすためにも、心理的安全性はかかせません。そもそも、圧倒的マイノリティの人々が自由闊達に意見を言ったりすることが「数の論理」からも難しいと言えます。もちろん、企業によってボリュームゾーンの偏りがあると思います。皆様の組織の年齢分布はどうでしょう。
「自分たちの会社は若手を対等、フェアに扱っている」とおっしゃる方もいるのですが、対等ではなく、何を言っても安心安全な環境が必要なのではないでしょうか。
そこまで会社が環境を作らねばいけないのか??と思う方もいますよね。
ここに面白い調査があるのでご紹介しましょう。野村総合研究所が行っている、「生活社1万人アンケート調査」です。このアンケートを用いた分析は、「先生、どうか皆の前でほめないで下さい」で取り上げられていました。1万人規模の大規模調査です。日本人がどのように変化してきたのかがかなり鮮明に反映されています。
2010年と2018年に実施したデータを比較すると、、、日本人の働き方が大きく変化してきたことがわかります。
野村総合研究所 NRI「生活者1万人アンケート調査」より抜粋
- 自分で事業を起こしたい -14pt
- 自分の仕事の目的は会社を発展させることである -11pt
- 周りの人から注目されるようなことをしたい -8pt
- より良い生活のためなら、今の生活を変える -7pt
- たとえ収入が少なくなっても、勤務時間が短い方が良い +8pt
- 会社や仕事のことより、自分や家庭のことを優先したい +12pt
最もマイナスとなったのは、「事業を起こしたい」でした。最もプラスになったのは、「会社や仕事より自分や家庭優先」でした。全体的にまとめると、「創業や目立つことをして仕事に打ち込むよりも、働く時間が短く、会社より自分や家庭優先」という、保守的な傾向に日本人全体がなってきている、と言えます。
会社でも、以前は自由闊達な風土だったのに、この10年くらいで、「なるべく沈黙を選びやすい、沈黙をした方が得である」という風土になったなと感じている方もいるかもしれません。この保守的になる背景には、少子高齢化や終身雇用制度の崩壊、テロや戦争、など様々な不安定かつ不確定な要素が多くなっていることもあるでしょう。
上司や経営者が明確な答えを持っていて、そのとおりに組織が動けば成長する、といった時代ではなくなってしまいました。
多くの経営者や人事部はますます、不安定な時代に「社員の挑戦、自律的な行動」を強く求めるようになっています。挑戦や自律的な行動をしてもらい、チーム一丸となって対処していかなければ競争力は上がりません。
ところが、社会全体としては、若手は圧倒的マイノリティで意見が出しづらく、上意下達な風土であればさらに沈黙を選びやすくなっています。アンケートにおいても、次第に保守的になってしまっています。
経営者や人事部が求めることと、社会全体の雰囲気や、上意下達の風土は全く逆である、、という矛盾が生じています。
私は、この矛盾を解決する策のひとつが「心理的安全性」だと考えています。
日本の企業は、大きく働いた体験が異なる3層構造でできています。
- A.「ミレニアル世代」中盤以降から「Z世代」までの若手(35歳未満、就業者の23%)・・・日本の低成長だけを経験し、会社に過度な期待をしない世代
- B.「就職氷河期世代」から「ミレニアル世代」中盤あたりまで(35歳〜50歳くらいまで、就業者の33%)・・・失われた20年もしくは30年を過ごし、価値観が多様な世代
- C.「バブル世代」以前の世代(51歳〜70歳、就業者の44%)・・・成長が約束され、答えは経営者が知っている世代
組織全体を活かし切る人的資本経営を行っていくには、ABCそれぞれの世代すべてが、自由闊達な意見を言い合える心理的安全性の高い組織づくり、風土づくりが重要です。特にAの世代は、会社に過度な期待をしていません。
そのためにも「沈黙を選ばないように会社が十分に考慮する必要がある」「心理的安全性を高めない限り自主的な行動は起こりづらい」と言えるでしょう。
過去コンテンツへのリンクです。
人的資本を考えるシリーズその1:人的資本経営を多面的に考えてみる
人的資本を考えるシリーズその2:人的資本の開示は誰にとって重要か
人的資本を考えるシリーズその3:具体的な開示項目を先駆者に学ぶ。企業文化は開示項目となるか?
人的資本を考えるシリーズその4:心理的安全性と人的資本経営の関係について
「心理的安全性」は日本企業こそ必要?-若手は超マイノリティ-
金融庁の「企業内容等の開示に関する内閣府令」等の改正案について人的資本の側面から見てみました
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